今週はこんな本を読んだ №746 「殺人鬼の放課後」

今週はこんな本を読んだ №746 (令和4年9月25日)

「殺人鬼の放課後」ミステリ・アンソロジーⅡ 角川スニーカー文庫 500円 H14年2月初版

 角川スニーカー文庫のミステリ・アンソロジー第二巻のこの一冊には、「水晶の夜、翡翠の朝(恩田陸)」「攫われて(小林泰三)」「還って来た少女(新津きよみ)」「SEVEN ROOMS(乙一)」の4編が収められている。
 ミステリ・アンソロジーと銘打ってあるがこの4編のいずれもがミステリーとは言い難く、むしろ露悪的で悪趣味、何とも気味の悪いものばかりで読後感もひどく悪いものばかりだった。「ホラー」というカテゴリーがあることは承知しているが、“もう、たくさん”というのが率直な感想だけが残った。

 「水晶の夜、翡翠の朝」。新本格30周年記念アンソロジー銘打った講談社タイガ文庫の№587「謎の館へようこそ 黒(17.10)」で「麦の海に浮かぶ檻」を読んでいる。発表順は本作の方が先ということになる。
 「麦の海に浮かぶ檻」は、かつては聖地と崇められ、やがてその地にわずかな者たちで修道院が造られ、その建物が巡りめぐって、今は彼の王国、彼の学校になっていた、という全寮制の学校が舞台になっている。この物語でも、一年の半分が冬というこの北の地、陸の孤島のようなところにある全寮制の学校、陸の孤島、優雅な檻の中で金持ちだが訳ありの生徒が贅沢な暮らしをしているという同じ舞台設定になっている。
主人公はヨハン、作詞サトウハチローの「わらいかわせみにはなすなよ」に見立てたような小さな出来事が二度起こる。三度目はヨハンが狙われた。どうやらヨハンが最終目的らしいと分かってくる。緻密で冷静で底知れぬ悪意が感じられる「童謡殺人ならぬ童謡傷害事件」と評されたこの出来事、「仕掛けた奴がこの歌を知っている」と書いているが、本当にそんなに簡単に言い切って良いものなのだろうかと、湧き上がってくる疑問を止められなかった。一年の半分が冬という北の陸の孤島のような修道院跡に建てられた学校、多国籍の生徒が在籍する学校にまでサトウハチロー作詞の曲が知れ渡っているとはとても思えないのだ。
 ヨハンは「犯人はジェイド、ジェイドの意味は翡翠、自分の名前はヒスイであること、つまりカワセミであることをヒントにくれていた」となぞ解きをするが、カワセミをカワセミと言うのは日本語であって、当然日本以外では別の名前を持っている。イギリス人、アメリカ人、フランス人、ドイツ人、中国人らとバードウオッチングに行って、飛び立ったカワセミを指さして、“あれはカワセミだ”と日本語で言っても誰にも通じない。

 「攫われて」。№595「密室+アリバイ=真犯人(02.2)」でこの作者の「獣の規約」を読んでいる。多重人格を題材にした物語で、主人公の異常な行動が明かされ、そこから徐々にこみあげてくる恐怖があってそして納得できるオチ、巧妙な構成が印象に残った。№622「空飛ぶモルグ街の研究(13.1)」で読んだ「路上に放置されたパン屑の研究」は、着想は秀逸だが結果として残念な一編だったが印象が少しだけ変わった。
 この一編は、「わたしたち、誘拐されたの。小学校から帰る途中」という書き出しで始まる。友達三人と一緒に男の車に乗せられ、車の中で友達の一人は犯人に殴られて死んでしまう。その死体を二人で引きずりながら小屋に入り監禁される。暴力、流血とか嘔吐とか、とにかく気味が悪い一編だった。

 「還って来た少女」。あなたとそっくりな子を見たよ、とクラスメートに言われた。クラスメートが見たという公園はこの町からかなり離れた町にある公園だった。塾の英語の講師は、新規受講生の倉田七穂が前に教育実習に行った時の生徒とそっくりなことに驚く。名簿を見ると中学二年生、死んだ木元春美は去年中学二年、生きていれば今年三年生、あの子は死んだ、同一人物のわけがないと思う。実は、倉田七穂と死んだ木元春美は双子の姉妹。七穂は4月1日の午後11時50分に生まれ、春美は2日の午前零時十分に生まれた。学校教育法では4月1日の満年齢で就学を決めていて、それで姉妹は一学年違いになったという説明に納得した。霊が「見える人、見えない人」という方向に進み、妹の敵討ちの物語と思っていたらまったく違っていた。

 「SEVEN ROOMS」。№603「殺人の教室(06.4)」で読んだ「犬 Dog」の印象が強く残っている。「殺人の教室」の解説に「切なさの達人と称せられてきた。「黒一」「白一」とも呼ばれる黒々としたストーリイと清々しいストーリイを書き分けることでも知られている」と書かれてあったのを今でも覚えている。この一編は「黒」でも「白」でもなく灰色でもなかった。
 一日目・土曜日から六日目・木曜日までの六日間の物語だ。デパートの近くの並木道を姉と歩いている時、突然後ろから殴られ気失い、窓もない小さな四角形の部屋でぼくは気絶から目が覚めた。姉がそばで倒れていた。僕は十歳、姉はもうすぐ高校生になる。裸電球が下がっているだけの立方体の部屋で鉄製の扉があるが把手がない。殴っても蹴っても「誰か助けて」と声をあげても反応がない。僕たち姉弟はこの部屋に監禁された。寝ている間に扉の下の隙間から食パンと水の入った皿が差し込まれていた。部屋の中央を貫いて溝があってゆっくりと水が流れているが物の腐ったような匂いがしている。溝の幅は50センチ深さ30センチくらい、片方の壁の下から出てもう片方に流れていた。僕はその水路に体を入れて上流に行ってみる。そこもまた同じつくりの部屋で、部屋の数は七つ、どの部屋にも一人ずつ、みんな訳も分からず閉じ込められていた。順番に人が入れられていく。昨日はいた人が消え、空になった部屋に人が入る、一日経つと人のいない部屋が下流にひとつずれる。七つの部屋は一週間を表している。順番に殺されまた補充されることが分かった。部屋を横切る溝の中を細かくされた人の体が浮いたり沈んだりしながら下の穴に吸い込まれていく。耳や鼻、小さくなった筋肉や骨、切断された指には指輪がついていた。染めた髪の毛が塊になって流れていく。よくみると髪の毛の生えた頭皮ごと流れていった。僕たちは誰かに殺される。僕と姉は生き残る方法について考え始めた。
そして、姉の勇気と犠牲で僕は監禁された部屋から抜けたすことができて物語が終わる。
 作者は電動のこぎりと書いているが、「13日の金曜日」の殺人鬼ジェイソンのように、チェーンソーを振り回す殺人鬼、それよりも内側に把手もついていない鉄製の扉と窓もないコンクリートの部屋に閉じ込められたと想像しただけでぞっとしてしまう。思い出すのも嫌になるのでもう二度とこの一冊は読まないと心に決めた。

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