今週はこんな本を読んだ №631  「頭脳明晰、特技殺人」

今週はこんな本を読んだ №631 (令和2年7月12日)

「頭脳明晰、特技殺人」ミステリー傑作選 日本推理作家協会編 講談社文庫 93年4月初版 700円

この一冊は1988年と89年版「日本推理作家協会編年鑑」を三分冊にした第二巻目になる。「河豚の記憶(黒川博行)」「列車ブラス・ワンの殺人(西村京太郎)」「ピッケルと幽霊(長井彬)」「我らが隣人の犯罪(宮部みゆき)」「十年(小杉健治)」「異人館の花嫁(多島斗志之)」「しあわせのわけまえ(浅川純)」「くせ(中津文彦)」「二四〇号室の男(原 寮)」「雨女(泡坂妻夫)」の10編が収められている。

「列車プラス・ワンの殺人」は警視庁の十津川警部と亀井刑事の推理と行動力で、犯人の目論んだ列車トリックを解明するといういつもと同じパターンの物語だ。小学校の校庭にある砂場で俯せになった死体が用務員によって発見された。首の周りには白いタオル、それを取り除くとうっ血した指の跡が見えた。被害者は自動車のセールスマンで、朝のジョギング中に襲われたものと思われた。砂場の道路側には1.8メートルの高さのコンクリート・ブロックの塀が続いていて、それで犯行が目立たず発見も遅れた。十津川班が出動する。聞き込みで結婚を約束した恋人をとられ、さらにその恋人はガス自殺したことで被害者を殺したいほど憎んでいる男がいることが分かってきた。その男の身長は176センチほどで大学時代には柔道をやっていたというがっしりとした体格の男、アリバイを確認すると大阪で高校の同窓会に出ていたという。前日の夜の九時以降に大阪を出て東京に着いて翌朝の早朝男を殺して九時までに大阪に戻れるか、ということがアリバイ崩しのテーマであった。飛行機、新幹線、ハイウェイバス、さらに寝台特急でもこの条件を満たせなかった。
十津川と亀井は大阪のホテルの近くに貨物ターミナルがあり、荷物を積んだトラックごと貨車に積んで運ぶというシステムがあることを知る。積み込まれたトラックの一台にもぐり込み、朝六時に東京大井の貨物ターミナルに着く、そこから犯行現場まではすぐのところだった。W運送のトラックの荷台の中には貨物をいれるジュラルミン製の箱がついている。その箱の中に隠れて貨物列車で東京まで運ばれたのだ、と十津川警部は推理する。さらにトラックの屋根にあがり、「ここから服部は塀越しに仁村の死体を砂場に向かって投げ込んだんだよ」、それからそのトラックで羽田、飛行機で大阪に向かったんだ、と言う。
絞殺したあとなぜ犯人は被害者の首にタオルを巻いたのかという疑問には、四トントラックを運転しながらジョギングする服部を見つけ、背後から襲い首を絞めた。仁村の死体をトラックの助手席に乗せ、小学校まで運んだ。助手席にいるのが死体だとわかってはまずいので首にタオルを巻いて隠した、と推理した。
どうしても呑み込めない疑問がふたつほどある。ひとつはW運送のトラックの荷台の中に忍び込むのは良いとしても、その時貨物室の扉は誰が閉めたのか。大井の貨物ターミナルに着いて誰が扉を開けてくれるのか。二つ目は四トントラックの屋根の上から死体を砂場に投げ落とした、と推理しているが、そもそも助手席にある死体をトラックの屋根に上げるのだって大変な力作業なのに、さらにそれを持ち上げて砂場の投げ捨てたという。被害者は痩せた長身の男で、投げ捨てた男は大学時代柔道をしていたという説明があるが、どんなに痩せたって50㎏はあるだろう死体を頭上に差し上げて砂場に向かって投げ捨てる、しかも足場の悪い四トントラックの屋根の上から。自分も一緒に落ちてしまいそうだ、とても実際的ではない。
そんなまるでアラ探しでもするかのように、いちいち論わなくてもいいじゃないか、<お話>なんだから、という意見が聞こえてきそうなのでもうこれ以上は止めることにする。

「異人館の花嫁」は、1888年(明治21年)の神戸外国人居留地が舞台になっている。結婚して初めて日本にやってきたヘレンという女性が主人公だ。夫のジョージ・ストーンはハドソン商会の神戸支配人をしていた。ジョージは四年前に妻を亡くし再婚だった。夫の本棚の奥からクララの日記を発見する。クララは夫の前の妻で台風の夜、屋根瓦が頭に当たって死んだと聞いていた。日記には「ヒル大佐から暗号の話を聞く」、「私は怖い。私は○○に殺される」という記述がありその○○名前の部分がクララの手で真っ黒に塗りつぶされていた。ヘレンは書かれてある数字の暗号は区画番号を示し、その住人の頭文字で置き換えると文字になるということに気が付いて犯人が分かったという物語だ。異国情緒たっぷりの一編だった。

「しあわせのわけまえ」は、物語がどこにどのような形で落ち着くのか最後まで分からなかった。
気のいい優しい夫をもった妻が保険の勧誘員にすすめられるままに夫の生命保険に入るお話、と思って読んでいた。結末を知って、そうかそういう落とし方もありか、と納得してしまった。読み手を不安な気持ちにさせたまま予想もしなかった展開を見せてくれる、その意味ではまさにミステリーらしいミステリーと言えるものだ。丁寧に読んでいけばちゃんと分かるようにしてあるので、機微なその仕掛けのところには触れない。「わけまえ」より「取り分」の方が彼女たちの主張に合致するのではないか、などというストーリイとはまつたく別のことを考えてしまった。私には特に気に入った一編だった。
「やさしくて正直でいい人」というのは当てにならない人と同義語ということがよく分かった。

「我らが隣人の犯罪」は№564「謎009(14.9)」で取り上げたのでここでは触れないが、読み直してその完成度の高さに改めて驚かされた。

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