今週はこんな本を読んだ №549 (30.12.9) 「謎 003」
今週はこんな本を読んだ №549 (30.12.9)
「謎 003」 恩田陸選 講談社文庫 08年9月初版 750円
この一冊には、「死者の電話(佐野洋)」、「一匹や二匹(仁木悦子)」、「眠れる森の醜女(戸川昌子)」、「純情な蠍(天藤真)」、「奇縁(高橋克彦)」、「アメリカ・アイス(馬場信浩)」、「帰り花(長井彬)」、「マッチ箱の人生(阿刀田高)」の八作が収録されている。各年に発表された短編の優秀作品を集めた日本推理作家協会編講談社文庫の、72年82年92年の「ミステリー傑作選」のなかから恩田陸が選り抜いたベスト・オブ・ベストだ。
選者の恩田は、72年は小学校二年生、82年は高校三年生、受験勉強中でも読書にいそしんでいた。92年、小説家としてデビューした、と書いている。72年から92年の30年間は昭和47年から平成4年に当たる。日本の現代史のなかでも大きく時代が変わった30年になる。
「死者の電話」は佐野洋のミステリー短編の見本のような、まったくよく出来たお話になっている。
娘の昔の婚約者から電話がかかってきた。その婚約者は一年も前にアメリカでぽっくり病で死んだと聞いていた。男に会ってみると男も娘が交通事故で死んだと聞いたという。二人はともに相手が死んだと考え、相手との結婚を諦めた。娘はその後に結婚して妊娠していた。どうやってこのお話を落とすのか、最後の最後まで引っ張られてしまった。
「一匹や二匹」。仁木悦子が乱歩賞を受賞した「猫は知っていた」をずっと昔に読んだことがある。この物語は小学校六年二組の僕と杉岡君の二人が探偵として活躍する。ほのぼのと暖かい、味わいのある掌編になっている。
「眠れる森の醜女」の作者の戸川昌子という名前を見て懐かしさで一杯になった。シャンソン歌手であり、テレビが最も輝かしかった頃のテレビ・タレントであり、そして何よりも大人の美人だった。
交通事故で怪我を負い、顔を手術して白いデスマスクのようなもので顔を覆われ、意識なくずっと眠り続けている女性。一年以上も前に家出した妻かもしれないと、病院を訪ね毎日看護に励んでいる夫、そして収容されている病院は教会によって運営されていた。ぞくぞくするようなサスペンスで最後まで読まされた。
「純情な蠍」は天藤真の作品だ。ある一時期天藤の文庫本を集中して読んだ時があったことを懐かしく思い出しながらこの一編を読んだ。帰宅すると妻から、女の人が訪ねてきて、私が高校生の時電車の中で顔見知りになった高校生が自分の亡くなった夫で、夫の日記に出て来る人を訪ね歩いて自分の知らなかった夫のことを教えてもらうのが生きがいになった、二十何年か前の日記に二回か三回名前が出て来る、とそんな話をしたという。
夫の会社に知らない男から電話があり、会ってみると、その「夫」が書いた一年分一冊の「日記」を買ってもらえないか、という。そこには妻と肉体関係のあったことが綴られていた。
男から「日記」の代金は120万円と提示された。この作品の書かれた昭和62年当時のことを思い出すと120万円は決して躊躇するほど高額ではない。これだけの仕掛けで成り立つ詐欺なのか、などと考えさせられた。
「奇縁」は高橋克彦の手堅い一編で、地方都市の弁護士が主人公だ。交通事故で加害者の男と知り合いになる。
軽い怪我だったが毎日見舞いに来てその誠実さを信用して親しく付き合うようになり、この男が抱えていた問題を解決してやる。この男の妻はもと地元放送局の美人アナウンサーだった。この男が加害者になって交通事故で足を怪我して入院、毎日の見舞いやその後の対応の誠実さで男と結婚した。じわじわと怖さが染みてくるような、恐ろしさに引きずり込まれるような気持ちにさせられた。
「アメリカ・アイス」の著者の馬場信浩は、ノンフイクションの「落ちこぼれ軍団の奇跡」が「スクール・ウォーズ」としてTV化されたことで名前だけは知っていた人だ。カリフォルニア州のサンタバーバラにある有名校の私立の進学校ハッピー・ヴァレー・スクールを舞台にした、ドラッグの「スクール・ウォーズ」物語だ。
「帰り花」。Mデパートの催物会場で「茶道名宝展」の第一日目が終わってほっとしている時に、階段横に積んであった商品から煙が出るというボヤ騒ぎがあった。煙はすぐに治まったが、展覧会の目玉、重要文化財に指定されている「初花」という名の茶入れを見て、火事の前と後では展示されていたものが違うようだ、と言い出す者が現れた、というところから物語が始まる。足利義政が命名したといわれる「初花」の伝世の歴史をたどり、「帰り花」と名付けられた茶入れが出現する骨董蒐集家の執念のようなものが描かれている一編だ。
「マッチ箱の人生」。四谷のスナック・バー<奈緒子>、地下の小さなバーが舞台だ。そろそろ店じまいというところに馴染みの客が入ってくる。男がポケットから取り出したマッチ箱の中に吸殻が一本入っていた。それを見て奈緒子が、マンションに男を訪ねたけど留守だった、吸殻を捨てるところがなかったのでマッチ箱に入れた、相手が女だったらもう少し待つはず、と推理する。そしてママの奈津子が「もう時効だから」と言って、忘れられないという話をする。
三年前まで銀座でバーを開いていた時、法事のため実家のある盛岡に帰る電車に乗った。乗ってすぐに眠ってしまったが、気がつくと隣に女が座っていた。すぐに同業者だと気づいた。その女が出したマッチ箱に口紅が付いた吸殻が入っていた。そのマッチは自分の店のものだったが、その女は店の客ではなかった。
店のマッチが無くなったので急いで注文して、業者がまだ糊の乾いていないマッチを20個だけ持ってきた。それを三人の客に渡した。それは今朝の事、今から数時間前の事だ。このマッチを持って行った三人の一人と今朝の三時から六時の間に会ったということになる。マッチを持って行った三人のうちの一人が殺され、事故か自殺か分からないまま迷宮入りになった。女が自分の吸った煙草を遺留品として残さないようにマッチ箱に入れて、それから電車に乗ってきたと思う、と推理が進んでいく。深夜のバーのカウンターが舞台になった安楽椅子探偵ものだ。もうひとひねり、犯人が奈津子その人だったら、と思わずにはいられなかった。
「謎 003」 恩田陸選 講談社文庫 08年9月初版 750円
この一冊には、「死者の電話(佐野洋)」、「一匹や二匹(仁木悦子)」、「眠れる森の醜女(戸川昌子)」、「純情な蠍(天藤真)」、「奇縁(高橋克彦)」、「アメリカ・アイス(馬場信浩)」、「帰り花(長井彬)」、「マッチ箱の人生(阿刀田高)」の八作が収録されている。各年に発表された短編の優秀作品を集めた日本推理作家協会編講談社文庫の、72年82年92年の「ミステリー傑作選」のなかから恩田陸が選り抜いたベスト・オブ・ベストだ。
選者の恩田は、72年は小学校二年生、82年は高校三年生、受験勉強中でも読書にいそしんでいた。92年、小説家としてデビューした、と書いている。72年から92年の30年間は昭和47年から平成4年に当たる。日本の現代史のなかでも大きく時代が変わった30年になる。
「死者の電話」は佐野洋のミステリー短編の見本のような、まったくよく出来たお話になっている。
娘の昔の婚約者から電話がかかってきた。その婚約者は一年も前にアメリカでぽっくり病で死んだと聞いていた。男に会ってみると男も娘が交通事故で死んだと聞いたという。二人はともに相手が死んだと考え、相手との結婚を諦めた。娘はその後に結婚して妊娠していた。どうやってこのお話を落とすのか、最後の最後まで引っ張られてしまった。
「一匹や二匹」。仁木悦子が乱歩賞を受賞した「猫は知っていた」をずっと昔に読んだことがある。この物語は小学校六年二組の僕と杉岡君の二人が探偵として活躍する。ほのぼのと暖かい、味わいのある掌編になっている。
「眠れる森の醜女」の作者の戸川昌子という名前を見て懐かしさで一杯になった。シャンソン歌手であり、テレビが最も輝かしかった頃のテレビ・タレントであり、そして何よりも大人の美人だった。
交通事故で怪我を負い、顔を手術して白いデスマスクのようなもので顔を覆われ、意識なくずっと眠り続けている女性。一年以上も前に家出した妻かもしれないと、病院を訪ね毎日看護に励んでいる夫、そして収容されている病院は教会によって運営されていた。ぞくぞくするようなサスペンスで最後まで読まされた。
「純情な蠍」は天藤真の作品だ。ある一時期天藤の文庫本を集中して読んだ時があったことを懐かしく思い出しながらこの一編を読んだ。帰宅すると妻から、女の人が訪ねてきて、私が高校生の時電車の中で顔見知りになった高校生が自分の亡くなった夫で、夫の日記に出て来る人を訪ね歩いて自分の知らなかった夫のことを教えてもらうのが生きがいになった、二十何年か前の日記に二回か三回名前が出て来る、とそんな話をしたという。
夫の会社に知らない男から電話があり、会ってみると、その「夫」が書いた一年分一冊の「日記」を買ってもらえないか、という。そこには妻と肉体関係のあったことが綴られていた。
男から「日記」の代金は120万円と提示された。この作品の書かれた昭和62年当時のことを思い出すと120万円は決して躊躇するほど高額ではない。これだけの仕掛けで成り立つ詐欺なのか、などと考えさせられた。
「奇縁」は高橋克彦の手堅い一編で、地方都市の弁護士が主人公だ。交通事故で加害者の男と知り合いになる。
軽い怪我だったが毎日見舞いに来てその誠実さを信用して親しく付き合うようになり、この男が抱えていた問題を解決してやる。この男の妻はもと地元放送局の美人アナウンサーだった。この男が加害者になって交通事故で足を怪我して入院、毎日の見舞いやその後の対応の誠実さで男と結婚した。じわじわと怖さが染みてくるような、恐ろしさに引きずり込まれるような気持ちにさせられた。
「アメリカ・アイス」の著者の馬場信浩は、ノンフイクションの「落ちこぼれ軍団の奇跡」が「スクール・ウォーズ」としてTV化されたことで名前だけは知っていた人だ。カリフォルニア州のサンタバーバラにある有名校の私立の進学校ハッピー・ヴァレー・スクールを舞台にした、ドラッグの「スクール・ウォーズ」物語だ。
「帰り花」。Mデパートの催物会場で「茶道名宝展」の第一日目が終わってほっとしている時に、階段横に積んであった商品から煙が出るというボヤ騒ぎがあった。煙はすぐに治まったが、展覧会の目玉、重要文化財に指定されている「初花」という名の茶入れを見て、火事の前と後では展示されていたものが違うようだ、と言い出す者が現れた、というところから物語が始まる。足利義政が命名したといわれる「初花」の伝世の歴史をたどり、「帰り花」と名付けられた茶入れが出現する骨董蒐集家の執念のようなものが描かれている一編だ。
「マッチ箱の人生」。四谷のスナック・バー<奈緒子>、地下の小さなバーが舞台だ。そろそろ店じまいというところに馴染みの客が入ってくる。男がポケットから取り出したマッチ箱の中に吸殻が一本入っていた。それを見て奈緒子が、マンションに男を訪ねたけど留守だった、吸殻を捨てるところがなかったのでマッチ箱に入れた、相手が女だったらもう少し待つはず、と推理する。そしてママの奈津子が「もう時効だから」と言って、忘れられないという話をする。
三年前まで銀座でバーを開いていた時、法事のため実家のある盛岡に帰る電車に乗った。乗ってすぐに眠ってしまったが、気がつくと隣に女が座っていた。すぐに同業者だと気づいた。その女が出したマッチ箱に口紅が付いた吸殻が入っていた。そのマッチは自分の店のものだったが、その女は店の客ではなかった。
店のマッチが無くなったので急いで注文して、業者がまだ糊の乾いていないマッチを20個だけ持ってきた。それを三人の客に渡した。それは今朝の事、今から数時間前の事だ。このマッチを持って行った三人の一人と今朝の三時から六時の間に会ったということになる。マッチを持って行った三人のうちの一人が殺され、事故か自殺か分からないまま迷宮入りになった。女が自分の吸った煙草を遺留品として残さないようにマッチ箱に入れて、それから電車に乗ってきたと思う、と推理が進んでいく。深夜のバーのカウンターが舞台になった安楽椅子探偵ものだ。もうひとひねり、犯人が奈津子その人だったら、と思わずにはいられなかった。
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